フランス (6-3)一両だけの国際列車
午前10時25分、ストラスブール駅。LCD発車案内に10時49分発のオッフェンブルク行き列車の発車番線はまだ表示されていない・・・が、駅コンコースをキョロキョロと見回しているうちにいつの間にか表示されていた。やはり発車番線が確定するのは出発20分前、ということらしい。
地下道をくぐりホームへ向かうと、目指す列車は広い駅構内の外れにひっそりと停車していた。ドイツから乗り入れてきた車両で、車体に書かれた文字は『ORTENAU-S-BAHN』。オルテナウ地区のローカル列車という意味となり、これは時刻表やインターネットでのルート検索等の旅客案内上でも列車種別のひとつとして『OSB』の略称で使われている。なぜ普通や快速に相当するRB/RE(詳細は後述)やterではないのかというと、日本と同様に国鉄が民営化されて誕生したドイツ鉄道(DB)では、日本に於けるJR東日本・JR西日本・・・という風な地域単位での分割ではなく、列車の運行・線路や駅施設の保守管理といった部門別での分離が行われ、DB直営の列車とは別に地方自治体が独自に列車を運行することも出来るため(列車の運転はDBに委託という形)。といっても運賃はDBの地域列車と全く共通で、実態としてはRB/REと何ら変わるところは無い。
側面を眺めると、窓の桟が斜めの互い違いになっており、これはドイツの伝統的な木組みの家の工法を採用したものだとか。
車両は3両止まっていたのだが、どうやら10時49分発の列車として運転されるのは先頭の1両のみらしい。ということは単行で国境を越えることになるのか。
車内はこんな感じ。車両の中央部分は低床式でホームとは段差なしで乗り降りできる。運転席横の車端は台車があるため高くなっていて、ここもコンパートメント風の客室として使われている。新型車両らしくすっきりと明るい車内である。
OSB87423 Strasbourg(10:43)→Offenburg(11:22)
進行方向右の窓側を確保し、席がそこそこ埋まったところでエンジン音を微かに響かせて発車。そう、この列車はディーゼルカーなのだ。ストラスブール~オッフェンブルク間はTGVも走行するルートなので電化されているのだが、フランスとドイツとでは電化方式が異なり、両電源に対応した高価な車両が必要となるため、ローカル列車はディーゼルカーで運行されているようだ。日本でも直流区間と交流区間にまたがるローカル列車ではディーゼルカーで運転されるケースがあるので、これと同様の理由だろう。
列車は旧市街の西側にあるストラスブール駅を出発すると市南の新市街を東方向へ向かう。3~4分走るとトラムA/E線南部区間との交点、Krimmeri Stade de la Meinau駅のそばに設けられているKrimmeri-Meinauに停車。ここが早くもフランス側最後の停車駅となり、再び3~4分も走るとライン川の鉄橋を渡河。あっけなく国境を越えてしまい、すぐにドイツ側最初の駅であるケール(Kehl)に到着となる。陸路で国境を越えたのは2000年のスイス・イタリア国境以来となり、あちらは建前上のパスポートコントロールが存在したものの(実際にはフリーパスに近い形)、こちらはそれこそ日本で県境を越えるのと全く同じ感覚である。駅構内のサインがDB仕様に変化したのが唯一国境を越えたという実感だろうか。
《ライン川を渡って》
ケールからはどっと乗車があり、座席が埋まるどころか通路には立ち客まで。シェンゲン協定のお陰で国境を意識する機会は少なくなっているものの、やはり国境を越えた日常的な流動というのはまだまだ限られたものなのだろうか。
ごく普通の国内ローカル列車のフリをして乗客を満載した列車は、ラインの河岸地帯を一路東へ。河川交通の要衝らしく工業地帯の趣だったケール市街を抜けると、広々とした原野の中を疾走していく。・・・と、突然車窓をつがいの野生の鹿の姿がよぎり、鹿といえば奈良公園と宮島くらいでしか見た事のなかった私は思わず身を乗り出し振り返る。後に能勢に住んでいる私の親戚に話を聞いたところ、日本でもちょっと田舎のほうへ行けば野生の鹿などゴロゴロいて珍しくとも何ともないのだとか。現にその親戚の畑には鹿よけのロープが張り巡らされていた。まあどちらにしろ、野生動物がいるということは都市化の波が押し寄せていない証拠でもある。
小駅に停車しながら長閑な風景を眺めつつ15分も走ると、左手から新幹線のような高規格の複線線路が近づき、暫しの間併走すると程なくオッフェンブルクに到着。ストラスブールからの所要時間は40分弱である。
(2008.04.09)
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長らくご無沙汰しておりましたが、変わらぬ密度の濃い内容に頭が下がる思いです。
さて、この単行ディーゼルカー、非常に面白く感じました。
TGVルートとは言えこのような単行で済む程度の需要であっても運行を続けてくれるのはうれしいものですね。
鹿といえば私の親戚の家でもよく出るようになったと聞いたのですが、近年は日本各地で山が荒れ
鹿のみならず野生動物が人里に下りる例がやたら増えたのだとか。
やはり畑に今まで必要なかった柵や音響で脅かす装置などを設置していましたが、何とも悲しいものですね。
投稿: 乗後景 | 2009.02.04 00:15
こちらこそご無沙汰しております。高い評価をいただきなんだか恐縮です。やはり考え付くままに色々と盛り込んでいると文章量も膨れ上がってしまい、なかなか先へ進まないのが悩ましい所です。
この国際列車ですが、現在でこそほぼ1時間に1本の割合で運行されているのですが、5年程前までは運行本数は極端に少なかったそうで、その流動の細さも推して知るべしといったところでしょうか。とはいえ通貨統合も果たせたことですし、長いスパンで新たな需要を創出すべく「種を蒔いている」段階なのかな、と感じました。
>近年は日本各地で山が荒れ~
同感です。地球温暖化への関心の何十%かでも、このように身近かつ喫緊の課題へと目を向けられないのかと思います。気付けば時既に遅し・・・とならなければ良いのですが。
投稿: chikocrape | 2009.02.04 21:32