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2009.12.14

雁多尾畑を知っていますか(前編)

私はさしあたって、日本第二の都市圏である大阪の近郊に在住しているのですが、広大な関東平野に展開する首都圏とは対照的に、大阪都市圏は都心部のすぐ外縁に山地が迫り、更にその山地を越えて都市圏が広がっているのが特徴となります。そんな山地の人口希薄地帯を通過して両地域間をつなぐ太い交通網が大阪を中心に放射状に伸びており、とてもその山間の風景にそぐわないほどの激しい流動が日常のものとなっているわけですが、これから数回に分けてそのような「都市圏のエアポケット」とも呼べる、都会と背中合わせの“秘境”を訪れてみたという話をしてみようかと。それも鉄道をはじめとした公共交通機関だけで短時間で容易に訪問することが可能な、言うなれば『コンビニエンス秘境』の数々です。

第一回目はJR大和路線(関西本線)沿線、大阪府柏原(かしわら)市内にある雁多尾畑(かりんどおばた)という地区を取り上げます。天王寺を出発した快速電車は大阪の郊外を南東へ貫き、10分そこそこのうちに生駒山地と金剛山地の狭間を流れる大和川の渓谷へと分け入っていきます。私は今回はその手前の久宝寺で普通電車に乗り換え、県境手前の河内堅上(かわちかたかみ)という小さな駅で下車。春には下り線(天王寺方面)ホームの桜並木が咲き誇るそうなのですが、訪問当時は2月という冬真っ只中の時季でした。

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《河内堅上駅・ホーム》

駅名表示がなければ普通の民家と見間違えてしまいそうな駅舎。利用客は少ないですが、夕方まではちゃんと委託の駅員さんが常駐しています。

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《(上2枚)河内堅上駅・駅舎》

目指す雁多尾畑へは西(天王寺方面)へ進んでいくのが最短距離となりますが、往路は亀の瀬という地区を経由して行くので、線路沿いに東へ向かいます。人家の全くないところですが、川の対岸には国道25号線が通り、大和路線もこの区間は昼間でも一時間に往復18本の電車が頻繁に通過し、古く飛鳥時代以来の大阪~奈良間の幹線ルートとして、現代でも重要な役割を担っています。

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ひたすらズンズンと歩いていくと、やがて道は次第に高度を上げ始め、大和川と国道25号、そして対岸に渡った大和路線の線路を見下ろすようになります。この辺りが亀の瀬地区で、軟弱地盤と急斜面による地滑りが多発する地帯(有史以前からとも推測されています)として古くから街道の難所として知られていたポイント。明治時代にこのルートに開通した鉄道も当初は川のこちら側を通過していたのですが、開通前からトンネルに亀裂が入って改修を余儀なくされたり、ついには線路ごと土砂に呑み込まれてしまったりと、放棄に至る理由は十分。大和路線はこの県境区間で5回も川を渡っているのですが、そのうちの2回は亀の瀬を迂回すべく後年付け替えられたルートに拠るものです。この亀の瀬トンネル、2008年10月に工事中に偶然遺構が発見され、当記事の執筆数日前に報道陣に公開された様子がニュースになっていました。保存状態は良好で、来年には一般公開も予定されているとの事。80年ぶりに日の目を見ることとなったこのタイムカプセル、私も一般公開の日を首を長くして待っているところです。


【動画】亀ノ瀬の展望台より大和川を望む

この付近の地名は「峠」といい、かつて奈良街道の道筋が山腹を伝って通っていたことを匂わせます。そのまま東へ進めば峠の集落を抜けてJR三郷(さんごう)駅近くの新興住宅地へ出ることができますが、今回は足を運びませんでした。

ここでは1962(昭和37)年から国土交通省によって地滑り対策の工事が行われており、段々畑のように整備された斜面には集水井(しゅうすいせい;地下水を集めて排水路へ流す口)の円柱があちこちの地面から飛び出しています。上述の亀ノ瀬トンネルも、この工事の一環である排水トンネルの掘削中に見つかったものです。

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《地滑り対策工事現場の全景》

万が一地滑りを起こして渓谷が土砂に埋まってしまうと、交通が寸断されるだけではなく大和川が堰き止められて上流の奈良盆地内で大氾濫を起こし、更にはダム化した川が決壊して下流の大阪平野全体に甚大な被害を及ぼす恐れがあります。従って大和川流域だけではなく関西地方全体の安全保障に係わる大プロジェクトというわけです。

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《平面に整地された斜面上にて》

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《手前中央の円柱が集水井》

雁多尾畑の集落は山の中腹にあるので、この斜面をどんどん登っていきます。道のりの途中には地滑り対策事業の資料館が建っていたのですが、見学には予約が必要らしく今回はやむなく通り過ぎるのみ。車道はぐねぐねとカーブを繰り返して上がって行きますが、別に直線状に登る歩行者用の階段も用意されています。

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《かなり登ってきました》

20分以上を要して斜面の頂上へ。この上からは奈良盆地を望めます。

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池と畑の横を通り、尾根伝いに進んで目的地の雁多尾畑の集落内へ。(次回へ続きます)

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(2007.02.03)




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