美作・因幡ぶらり旅 (4)若桜鉄道(郡家~若桜)
鳥取駅から若桜鉄道(わかさてつどう)の気動車に乗り込み、終点の若桜を目指します。若桜鉄道の始発駅は郡家ですが、同線の11往復の列車のうち7往復が鳥取へ乗り入れてきています。乗車券は鳥取駅の自動券売機で若桜まで通しで購入できるので、因美線の支線という感覚ですね。余談ですが、乗り入れ先の鳥取~郡家間もそのまま若桜鉄道の乗務員が運転を行っています。
単行の気動車は因美線を南下。鳥取市のベッドタウンとなっている地域なので、乗客はそこそこ多いです。郡家を出て若桜鉄道に入ると、ここまで並行していた国道29号線のルートをそのままなぞるようにして八東川流域を進んでいきます。国道29号はかつて中国自動車道と連携して京阪神~鳥取間の最短ルートの一翼を担っていましたが、近年は路線改良が進んだ智頭急行沿いの国道373号へ移行し、間もなく全線開通を迎える鳥取自動車道もR373に沿ったルートを採っています。
次駅の八頭高校前までの距離は0.9kmと短く、この駅が開業した翌年の1997年から2007年まで、郡家~八頭高校前間の大人普通運賃は60円と、日本一安い運賃となっていました。2007年に100円に値上げされた結果、八頭高校前駅開業以前に最安だった北大阪急行の一駅間の運賃(80円)が、再び日本一の座に返り咲いています。八頭高校は郡家からでも容易に歩いて来れる距離ですが、例え不定期でも悪天候の日などに利用してもらえれば…という狙いのようです。
沿線は総じて単調な農村地帯が続きますが、途中の小駅では1930(昭和5)年に国鉄若桜線として開業して以来の古い駅施設が未だ現役で使われており、2008年には第三セクターへの転換後に設置された駅以外の線内単独駅6駅すべてが国の有形文化財に指定されました。過疎ローカル線でさえその大資本の庇護の下にあるJR線とは異なり、赤字線として切り捨てられた第三セクターは例外なく設備の改良に汲々とするものですが、若桜鉄道については改善の遅滞が逆に観光資源として注目されるきっかけとなり、これぞまさに「塞翁が馬」と言ったところでしょうか。この約10日後に訪れた兵庫県の北条鉄道(→記事へのリンク)も、同様に蒸気機関車が活躍していた時代の雰囲気を真空パックで保存してあるかのようでした。
線内には交換設備は一ヶ所もなく(全線一閉塞)、19.2kmを30分で走って終着駅若桜に到着。広い構内にはSL時代の給水塔や転車台が残り、創業当時からの木造駅舎も相まって、平成の世とは思えない荘重な空気が漂っていました。
若桜駅駅舎の外観です。
若桜町は現在国道29号線がその道筋を踏襲する若桜街道の宿場町として江戸時代に栄え、中世の時代から若桜鬼ヶ城の城下町として発展していた由緒ある町です。明治時代の大火によって古い建物はほとんどが焼失してしまいましたが、「蔵通り」や「カリヤ通り(*注)」と称される、往時の面影をとどめる通りも残っています。
*注:カリヤ=漢字では「仮屋」または「借屋」。家屋を道路から約3mセットバックさせ、その部分に庇を設けて雨や雪を避けられるように一種のアーケードとした建築を指す。中華圏でみられる「騎楼」のようなもの。
若桜は名産の杉をはじめとした林業の町でもあり、市街を歩いていると切り出したままの材木や加工済みのそれが積み上げられている様子を頻繁に目にしました。
30分ほど散策したのち、次の列車で郡家へ戻ります。往きに乗車したのは標準的なボックスシートが並ぶ「さくら4号」でしたが、今度の列車はこの「さくら4号」に、イベント用としても使われる特別仕様車の「宝くじ号」を増結した2両編成となります。
座席は転換クロスシートの豪華装備ですが、その中でも最たるものは…
このように冗談みたいに広いシートピッチの列が存在します。足を伸ばしても前の席に届きません。しかしながら広すぎると逆に落ち着かないものですね。
増結はこの後の鳥取からのラッシュ輸送に備えたもののようで、若桜鉄道線内は終始ガラガラでした。前身の国鉄若桜線は、氷ノ山を越えて山陰本線の八鹿付近に接続する構想を持って生まれた路線ですが、現在は鳥取の近郊路線として細々と運行されています。沿線地域での交通の主流は言うまでもなく自家用車ですが、R29上を走る路線バスの存在もマイナス要因のひとつ。鉄道と路線バス、それぞれに長所と短所があるのは承知ですが、ひとつだけ言えるのはこのような過疎地域で共存共栄というシナリオは有り得ないということです。競合関係として少ないパイを奪い合うのではなく、一枚の定期券で鉄道とバスの両方を利用できるようにするなど、事業者の枠を越えて互いに補完し合うような関係を築いていくべきだと考えますが、所詮は机上の空論でしょうか。
郡家からは因美線で津山へ向かいます。以下次回にて。
(2006.05.20)
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