タイ (1-5)マハーチャイ線・Part1(ウォンウィエンヤイ駅にて)
BTS駅から歩いて10分、タイ国鉄メークローン線(マハーチャイ線)のバンコク側ターミナルであるウォンウィエンヤイ(Wongwian Yai)駅に到着する。中・長距離輸送主体のタイ国鉄では唯一となる都市近郊型路線で(完全に別規格のエアポート・レール・リンクは除く)、他の国鉄路線とは一切接続していない孤立線区。元は私鉄をルーツとしており、かつては電化もされていたという、あらゆる意味で異色の路線である。本来はウォンウィエンヤイ~メークローン間がひとつの路線ではあるが、丁度中間地点で川によって分断されており、ここでは慣習に従って東半分をマハーチャイ線と呼称することとする。
この駅周辺の地図を眺めていると、線路の延長線上にチャオプラヤー川へ向けてチャルーンラット通り(Charoen Rat Rd.)というまっすぐな通りが延びているのが分かるが、実際この通りは1961年まで線路が走っていた跡を道路に転用したもので、現在ミレニアム・ヒルトンが建っている場所に渡し船の埠頭と接してターミナル駅を構えていた。廃止後は都心からの乗車だとバス→渡し船→バスと煩雑な三段活用を余儀なくされていたものの、2009年にBTSのウォンウィエンヤイ延伸が実現し、アクセスが飛躍的に改善された。
という薀蓄はほどほどにして、まずは駅の写真を。先ほど歩いてきた大通りからはやや路地を入った場所にあり、ここからだと列車の姿が見えないため、予備知識がなければそのまま駅だと気付かずに通り過ぎてしまいそうになる。
《SRTウォンウィエンヤイ駅入り口》
駅構内へ進むと、ホーム手前は列車の待合スペースとしてベンチが多数設置されている。実はこのようにスッキリとした景観になったのはつい最近のことらしく、以前は露店に並ぶTシャツなどの衣料品を掻き分けてホームへ出入りしなければならなかったらしい。
上の写真の左側は公園のように美しく整備されており、下の写真のようなモニュメントや鉢植え、手作りの動物の置物がおかれるなど、地元の人の駅への深い愛着が伝わってくる。
駅窓口でマハーチャイまでの片道切符を購入。33kmを約1時間の道のりだが、運賃は10B(25円)と超格安である。タイ国鉄の運賃は1等・2等・3等の三等級制となっており、その他急行・特急料金の付加や座席・寝台の別、エアコンの有無などで更に細分化されるが、メークローン線は全列車2等として運転されている。初乗りは3B、私が乗車する9時40分発の列車は非冷房(ファン)だが、1日5往復エアコンつきの列車も運転されており、こちらだと初乗りは20B、ウォンウィエンヤイ~マハーチャイ間では25B(65円)となる。
下はきっぷの画像。雰囲気からして硬券でも出てきそうな感じだったが、ドットプリンタで打ち出された中・長距離切符と同じフォーマットの券だった。情報はすべて英文併記となっており、タイ語が読めなくても全く問題ない。日本語の漢字・ひらがな・カタカナをはじめとして、タイ文字やハングル文字・アラビア文字など、外国人にとって解読が極めて困難な文字を使っている国ではチケットへの英語表記は基本中の基本のサービスと言え、この点でタイ国鉄は優秀だ。日本のJRでは最近になってようやくマルス券への主要駅駅名・列車名・号車・席番のローマ字表記が実現したものの(但しオプション扱い)、世界屈指の鉄道先進国にしてはあまりに遅きに失したと評さずを得ない。方向幕や駅の案内表示が日本語だけという風景も最近まで当たり前のように残っていたことだし、やはり日本は外国人旅行者には冷たい国である。
ちなみに時刻表はタイ国鉄のウェブサイトで英文表記のものがダウンロード可能(PDF)。ホテルにチェックイン後、最短で8時35分発の列車に間に合ったのだが、部屋でしばらく休憩していたので1本後の列車になった。
ホームは1面1線のみで、9時03分に到着した4両編成のディーゼルカーがそのままマハーチャイ行きの折り返し列車として、アイドリング音を響かせながら発車を待っている。ステンレス製で塗装もしっかりされており、思っていたよりもきれいな外観だ。軌間は東南アジアの標準規格である1,000mm(メーターゲージ)で、前面左の窓の下に書かれた「SRT」の文字は、タイ国鉄の英文表記の略称である(State Railway of Thailand)。
ホームのマハーチャイ方は露店街となっており、簡単な飲食もここで可能。そもそもホームのすぐ南側は商店街なので、市場の中に埋もれた駅という感がある。以前はもっと雑然としていたらしいが、ホームにはつややかに輝くタイルが敷き詰められ、露店もかなり控えめになった由。時代とともに確実に進歩している…とでも言うべきだろうか。
《乗降扉は開けっ放し》
《ホームからマハーチャイ方面の線路を眺める》
それにしても、孤立路線として後日利用するフアラムポーン駅とは全く趣を異にする、独特の雰囲気を持った駅である。この駅を訪れた際に脳裡に浮かんだのが、地上駅時代の名鉄小牧線の上飯田駅。都会の真ん中にありながらローカル駅然としたあの駅の雰囲気によく似ているし、タイ国鉄~BTS間の乗り換え客の列は、正にあの上飯田駅~地下鉄名城線平安通駅間で毎朝のように繰り返された「大名行列」を髣髴とさせる。全線非電化単線ながらも最短30分間隔の高密度運転を行うマハーチャイ線。今や近代的な都市鉄道に脱皮してしまったものの、かつては同じ単線ながら名古屋都市圏の近郊輸送を担った小牧線の面影をここタイの地で見出すことができて嬉しい。
といった具合にマハーチャイ線の概要に触れたところで、実際に列車に乗り込んでマハーチャイを目指すことにしよう。
(2011.12.09)
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