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2012.01.06

タイ (1-9)バンコクBRTに乗ってみる

バンコクBRTの西側の始発駅、ラチャプルーク駅(Ratchaphruek)にやって来た。BRTとはBus Rapid Transit、高速なバス輸送システムということで、モノレールや新交通システムのような中量輸送機関に匹敵するサービスをバスで実現しようというシステムのことである。BRTの導入目的としては、主に

(1) 走行路が一般の道路と分離されており、高速かつ定時性に長けたサービスが提供できる
(2) 在来の道路を転用できるので低コストで整備が可能
(3) バス車両を使っているので一般路線バスとの直通運転が可能

が挙げられるが、バンコクの場合は(1)(2)のメリットを採ったタイプである。訪問時点で今回試乗するサートーン~ラチャプルーク間15kmの1路線のみが営業中だったが、来年(2012年)にはBTSスクンビット線の北の終点・モーチット(Mo Chit)からパクレット(Pak Kret)までの路線が新たに開業する予定のようだ。

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《ラチャプルーク駅ホームを外側から眺める》

ラチャプルーク駅の出発ホームは高架道路の真下にあった。現在当駅の最寄り駅は前述のタイ国鉄マハーチャイ線タラートプルー駅だが、ここにはBTSシーロム線がウォンウィエンヤイから延伸・接続する予定で、この高架道路に並行してBTSの高架線らしき構造物が出来上がっていた。BTS車内に設置された路線図式の車内案内表示装置には既にこの区間が記されていたため、実際に電車が走り始める日はそう遠くないようだ(未開業区間をテープで隠しておくなどの配慮がないのはやっぱりタイだから?)。ホーム入り口の前には普通車を20台くらい停められそうな駐車場が備わっており、訪問時は一台も停まっていなかったもののパークアンドライドを想定しているのだろうか。またこの駅には公衆トイレもあり(結構清潔)、朝ホテルを出発してから入るチャンスがなかったため、有難く使わせて頂いた。

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《ラチャプルーク駅・出発ホーム入り口》

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《用途不明の駐車場》

こうして写真に収めて回っているせいか、先ほどから案内スタッフが室内からこちらをジーっと見ており気になって仕方がないので、視線から逃れるべくさっさと室内へ。券売機があり、東の終点・サートーンまでのチケットを購入する。運賃だが、本来は距離に応じて10~25Bくらいの範囲で変動するようだが、今のところは周知期間ということなのか全線10B均一となっていた。開業は2010年5月なのでもう1年半経っていることになるが、いつまで続くのだろうか。

チケットは非接触式のICカードとなっており、カードを改札機にタッチしてホームへ進む。全駅に券売機と改札機が設置されており、バス運転手は運賃収受には一切関わらない。

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《BRTのチケット》

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《ホーム内。左の入り口から入る→正面の券売機でチケット購入→左手前の改札機を通過→右のホームへ、という流れ》

室内は冷房が効いていて快適。昼間時間帯は10分間隔で運転されており、次の13時10分発のバスを待つ乗客は10名にも満たない人数だ。すぐにサイドミラーを昆虫の触角のように生やしたバスが入線し、ホームドアの扉が開いて乗車となった。

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ホームが高床式なので、車内はノンステップ。もちろん冷房車である。BRTの先駆けであるブラジル・クリチバ市をはじめとして、世界各地には連接バスを導入してLRT並みの輸送力を確保しているケースも多いが、バンコクでは小柄な車両が使われていた。タイは左側通行(道路・鉄道共)なので一般のバスは左側に乗降扉が付いているが、BRTは島式ホームを採用(ホームが一本で済むので省スペース・省コスト)するために右側から乗降するようになっている(左にも扉はあるが未使用)。右ハンドル車からはホーム監視が容易なので、一石二鳥だろう。そんなわけで、一般の路線バスとの互換性は考慮していない設計となっている。

運転席の真後ろには左右4脚ずつのロングシートがあり、そのうち運転席と反対側の左最前席は「かぶりつき」が堪能できる特等席。もちろん私もここに腰掛ける。しかしこのBRTの車内、ノンステップとはいってもタイヤハウスやエンジン部の出っ張りが多く、座席に座る場合は18席中16席で1~2段の段差を上り下りしなければならない。なかでも最後部の4席はまるで王様の玉座のようにえらく高い位置に。ある意味アルヴェーグ式のモノレール(e.g. 東京モノレール)に通じるものがある。

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《かぶりつき席から車内を眺める》

運転席は客室から完全に隔離されているが、かぶりつき席からは丸見え。どういうわけかハンドルの真ん中にドラえもんのシールが貼ってあったり、サンシェードや業務用携帯電話のスタンドがファンシーグッズだったりする。ちなみに運転手はオッチャンです。

Fancy1 Fancy2

Fancy3

ひとしきり観察を終えたところでいよいよ出発。15kmの路線に12の駅があるが、最初のラチャプルーク~ラーマ3世橋(Saphan Phraram 3)間の駅間距離は特に長くなっている。バスは最も中央寄りの車線を快走。ほとんど信号のない幹線道路なので、駅間はほぼノンストップだ。下にBRTのルートマップを貼っておいたので、参照していただきたい。(走行ルートのみ。駅の位置については省略しています)

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《ラチャプルーク~ラーマ3世橋間を走る》


より大きな地図で バンコクBRT 第一期開業区間 ルートマップ を表示

最初の停車駅の駅名になっているラーマ3世橋でチャオプラヤー川を渡る。青空に映えるチャオプラヤー川越しに遠望する都心の高層ビル群。BRT屈指のビューポイントである。ルブアもすぐに見つかりました。

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《ラーマ3世橋から上流方向を眺める》

左岸に移ると駅がこまめに設置されている。ホームと車両の隙間を詰めるため、ホーム手前ではかなり減速して慎重に寄せていく。ホームだけを見ればまるっきりLRTそのものだ。

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《ホームに進入》

この後は右手を流れるチャオプラヤー川に沿ってラーマ3世通りをなぞっていくが、川の方は建物に隠されて見ることは出来ない。やがて前方に見えてくる斜張橋は、高速道路の橋であるラーマ9世橋。

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この区間では走行路はBRTの専用レーンではなく、「HOV」という文字とともに菱形の中に3と書かれた標識が付いている。HOVとはHigh Occupancy Vehiclesの略で、ある一定人数以上を乗せた車両に限って走行を許可するレーンを設置する仕組みのこと。相乗りを奨励するために特に交通を自家用車に依存したアメリカで普及している概念で、バンコクの場合は3人以上を乗せた車ならばBRTと同じレーンを走れるよ、という意味のようだ。

チャオプラヤー川はこの辺りではセーヌ川の如く大きく蛇行している。その中でも流路がオメガ(Ω)カーブを描く部分には半島状に挟まれた特徴的な地区があり、プラプラデーン(Phra Pradaeng)と呼ばれている。都心からわずかの距離にも拘らず半島の根元に橋が架かっているのみで、開発の手が全く入らずに昔ながらの農村地帯がそっくりそのまま残っているそうだ(モーン族という先住民の居住区ということで、開発に制限がかかっているとのこと)。衛星写真で見るとサンクチュアリとも言うべき、周辺地域でここだけが鬱蒼とした緑に覆われており、地理マニアとしてはたまらなく興味をそそられる土地である。因みにここからチャオプラヤー川の河口までは約15kmだが、実際の流路は倍以上の35kmもある。

ひたすらラーマ3世通りを走り続けてきたバスは、やがて左折してナラティワートラチャナカリン通り(Thanon Naradhiwas Rajanagarindra)へ。チャオプラヤー川に流れ込む運河を挟んで上下線が走る大通りで、もう終点サートーンまではこの通りを一直線。通過する通りは二本だけと、非常に分かり易い経路である。

ところでこのBRT、最も中央寄りの車線を走るために右折レーンよりも右側に直進レーンがあることになり、交差点では←・↑・→・↑と青信号が必ず方向別に分離されている。昔通学で毎日のように利用していた名古屋の基幹2系統バスと同じ仕組みなので既に理解済みだが、こちらのドライバーは理屈を分かっていない者が多いようで、→の青信号が表示されていなくてもBRTレーンをガンガン横切っていく。バスが接近していても気付いておらず、運転手は交差点に接近するとクラクションを鳴らし、時には急ブレーキも。基本的には専用レーン上を安定して走行できるだけに、事故防止のためにも一般ドライバーへの徹底した周知が求められる。

ナラティワートラチャナカリン通りはBRTの専用レーンが設置されており、一般レーンとはブロックで明確に区切られている。北上して都心が近づくと、3車線ある一般レーンはこの真昼間にも拘わらずほとんど身動きが取れない大渋滞。きっとドライバーはスッカラカンのBRTレーンを恨めしげに眺めているに違いない。こうした専用レーンを設置するからにはBRTのルートが旅客流動を的確に捉えているかどうかが重要で、特にバンコクのものは一般路線バスとの直通が物理的に不可能なだけあり、他の輸送モードと有機的にリンクした上で流動の「幹」となり得るかが成功の可否の鍵を握っている。

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《大渋滞の一般レーンを尻目にスイスイと進む》

13時40分、ラチャプルークからはぴったり30分で東の終点・サートーン(Sathorn)に到着する。公称通りの所要時間だったが、朝夕のラッシュ時は40~50分かかるとのこと。ナラティワートラチャナカリン通りは専用レーンなので所要時間の増加はないと考えると、やはりHOVレーンと共用するラーマ3世通りで遅延が発生してしまうのか。

そんなわけで再び名古屋を引き合いに出すと、ゆとりーとラインのような大掛かりなシステムではないものの、基幹2系統よりは手の込んだ設備とでも評せばいいだろうか。とはいえ基幹2系統がラッシュ時でも閑散時間帯とほぼ同じスピードで運行されていることを考えると(*注)、物理的な設備の充実度よりも運用面の巧拙の方がサービスレベルに於いて大きなウエイトを占めていることが分かる。道路事情については無法地帯とも呼ばれるバンコク都市圏。BRTは今後も順次路線拡張が計画されており、低コストなシステムでどこまで成果を上げられるのかに注目していきたい。

*注:バスレーンがバス専用になる平日朝に乗用車が無視してそのまま走り続けようものなら、すかさずパトカーが追いかけてきます。それ以前にも電光掲示板にナンバーつきで警告が出る徹底ぶり。

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《サートーン駅に到着したBRT車両》

(2011.12.09)


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