『京とれいん』に乗ってみました
昨年の3月に阪急京都本線にデビューした観光列車、『京とれいん』に試乗してみました。運行開始からもう1年以上経っていますが、私が京都へ行く際は9割以上がJR利用なので、なかなか巡り会う機会がありませんでした。阪急沿線の鉄道好きならば最低でも一度の試乗は義務だと考えていたので、今回ようやく、というわけです。
『京とれいん』は土曜・日曜・祝日のみの運転。1編成だけなので、2時間サイクルで大阪梅田~京都河原町間を1日4往復しています。滅多にないことですが、車両の不具合や全般検査の際には一般車両で運転されますのでご注意を。
今回試乗したのは梅田発の2本目、11時52分の便。種別は快速特急となり、途中停車駅は十三・淡路・桂・烏丸です。京都本線に残る6300系はこの京とれいんのみなので、久しぶりに見る「2ドア」表示が新鮮でした。従ってホーム足元の2ドア乗車位置案内も京とれいん専用のデザインとなっています。
11時45分、河原町からの折り返しとなる列車が入線してきました。
試乗が目的なのであまりいい写真はありませんが、扉が開く前に撮影した側面です。
京とれいんは6両編成ですが、そのうち目玉となる豪華設備の車両は中間の3・4号車。横4列が標準のところを3列に減らし、2人掛けと4人掛けのボックスシートを組み合わせた配置となっています(車端には3人掛け部分もあり)。ご覧の通り背もたれが高くて、ちょっとしたコンパートメント風。もちろん特別料金は不要で、これで梅田~河原町間390円なのですから、京阪特急のダブルデッカー車がデビューした際をも上回る衝撃があります。
【追記】2014/04/01以降の運賃は400円です。
2人掛けボックスをクローズアップ。座面と背もたれには畳を使用し、体が触れる部分にはクッションを。異なる素材を組み合わせた座席は、JR九州の817系を想起させます。枕の上の小さな仕切りには和紙をはさみ込んであるようです。小さいですがテーブルも付いてますね。
こちらは4人掛けボックス。9300系に採用された間接照明はこちらでも導入されており、和紙風の化粧板に天井の木目模様と、内装に限ってはかつての面影が殆ど残っていないほどの大改造が施されています。唯一原形を留めるのは窓枠のアルミフレームくらいではないでしょうか(こちらも日除けは鎧戸からロールアップカーテンに交換)。
時系列的には前後しましたが、デッキと客室はこんな紅殻(べんがら)格子風の仕切りで区切られています。まさか阪急電車の車両に「デッキ」なるものが登場するとは夢にも思いませんでしたが、ダウンライトでシティホテルのエントランスのような重厚な雰囲気が演出されています。
座席がきっちり埋まったところで梅田出発。案内放送は原則自動放送で行われ、日本語・英語・中国語・韓国語の4ヶ国語に対応していました。ちなみにデッキでは阪急お手製の京都観光マップが配布されており、こちらも多言語対応となっています。
淀川を渡り、3分で十三着。たった2分前に特急が先行しており、そちらは京とれいんの停車駅に加えて茨木市・高槻市・長岡天神にも停まるため、フツーに走っていればすぐに追いついてしまいます。そういう理由もあってか、列車の姿を認めて次々と駆け込んでくる乗客を粘り強く待ち続け、2分半遅れで出発しました。あまり遅れすぎると途中での接続や追い抜きにも影響してしまいますが、合理的かつ関西らしい血の通った対応に甚だ感服させられました。
堺筋線からの直通準急と同一ホームで連絡する淡路で大阪側の停車を終え、次は京都市内の桂までノンストップ。淡路を出発したところで自動放送による観光ガイドが始まりました。先行する特急とも間隔が開いたため、京都線特急の主力車両として活躍していた時代を髣髴とさせるような、なかなかのスピードで長年通い慣れた道を突き進んでいきます。前半の梅田~高槻市間は、元々10分のあいだに特急・準急・普通と3本とも停車パターンが違う列車が錯綜する中へ、更にまた別のパターンの列車を1本ねじ込み、しかも淡路駅の平面交差も考慮する必要がある…という、非常に高度なダイヤが組まれている区間です。
改めて座席の坐り心地を確かめてみますが、座面が硬いのはまだしも背もたれが直角なので、純粋な居住性という点では若干難アリ。それでも特別料金不要でありながらコンパートメントに準ずる設備ですし、お弁当を持ち込んでもおかしくないようなヨソイキ志向のくつろぎ空間は、最長でも40分強の乗車時間には勿体無いほどです。横1列分減らしただけあって木製のどっしりとしたアームレストもついており、横方向の占有スペースはグリーン車並。帰りに乗車した9300系が非常に窮屈に感じられるほどの歴然とした差があります(ただ、坐り心地は9300系の方が上)。
毎日運転の定期列車では通過する列車の設定が無くなってしまった茨木市・高槻市の両駅も、意図的に遅れた『京とれいん』はハイスピードを維持したまま一瞬のうちに駆け抜けていきます。それでも大阪・京都の府境を越え、大山崎駅に差し掛かった辺りからとうとう先行の特急に追いついてしまったようで、つい先程までの俊足振りが嘘のようなノロノロ運転に。ダイヤ通りならば茨木市・高槻市の手前でもこのように減速しているはずですが、速達が目的の列車ではないとはいえ、ダイヤを熟知していない一般乗客にとっては不可解に感じられるのも無理はないです。
今回試乗したのは桂まででしたが、下車する直前に1・2・5・6号車の仕様もチェックしてみました。こちらは座席のモケットや化粧板が張り替えられ、蛍光灯も昼白色から電球色に変わっているものの、基本的には8連時代のままの小改造に留まっています。やはり『京とれいん』らしさを味わうには、競争率は高くなるものの是非とも3・4号車に乗車してみたいですね。
両都市の中心地を直結するという強固なアドバンテージを持つとはいえ、大阪~京都間では圧倒的なスピードを誇るJR新快速や、速達性では劣るものの車両に関しては話題に事欠かない京阪に比べると地味な印象が拭えない阪急ですが、これまで機会に恵まれなかっただけで
「実は阪急も本気を出せばスゴい」
というのを身をもって体感できる、今なお息づく関西私鉄スピリットを体現したような車両に仕上がっていました。なにぶん本数が少ないのが弱点ではありますが、休日京都へお出掛けの際、時間を合わせてでも一度体験してみてはいかがでしょうか。
(2012.05.19)
【追記】
定期列車としては梅田~河原町間のみの運行となりますが、たまに嵐山線へ臨時列車として入線する場合も。下のリンクは2013年12月14日に嵐山駅へやって来た時の様子です。
京とれいん@嵐山駅
【追記2】
2019年3月より運転を開始した第2編成、『京とれいん 雅洛』の乗車レポートはこちらのリンクから。
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