16/02/20 (2)ヴァーチャル心象風景をたずねて~由布島にて~
9時35分、由布島(ゆぶじま)の入り口に到着です。西表島へ初めて来てここをスルーする人はまず居ないというほどの、島を代表する観光地ですね。この朝早い時間でも駐車場には既に観光バスが数台停まっており、ツアー客が次々と水牛車へ乗り込んでいきます。
我々は個人旅行客なので、『旅人の駅 由布島』という建物の中で往復の水牛車と由布島への入園料がセットになった券を購入。大人1名1,400円と結構なお値段です。
▲旅人の駅 由布島
普段ならばこんなツーリスティックなスポットには好んで近寄ったりはしないのですが……。以前にシンガポール編で一言触れたことがありますが、私が小学生の頃、今でいうライ○ップやスマホゲーのCM並みにヘビロテ放映されていた明電舎のTVCMでこの島のことが取り上げられており、当時はテレビを最も熱心に見ていた時代だったこともあって(今ではめっきり見なくなりましたが)、幼少時の私を取り巻く風景の一部としてこの島の景色がインストールされたのでした。有難いことにYouTubeへこのCMをアップして下さっている方がいらっしゃるので下に貼り付けておきますが、あれから四半世紀、とうとう実際にこの地の土を踏むチャンスが訪れたというわけです。
――まぁ、そんな内に秘めたる感慨など一瞬で吹き飛ばすほどの観光地オブ観光地な雰囲気ではあるのですが……。やはりというか、TVCMがきっかけで放映当時には爆発的に訪問者が増加したとのことです。
水牛車の待機場の風景です。
この水牛車に乗って目指すは、400m先の由布島。島で用いられる電気は、このような送電線経由で西表島から送られています。この電力インフラ整備に明電舎が携わっていたために、CMで紹介されたというわけ。
西表島と由布島の間は潮位によっては歩いて渡れるほどの浅瀬なので、潮位が低い今の時間は由布島のスタッフが常にジャブジャブと両島間を行き来しています。実は我々観光客も歩いて渡ることが可能。チケットを購入する際に長靴を貸し出してくれるそうです。この場合は水牛車の乗車料金も不要なので、由布島への入園料600円のみで入島できるというのもメリット?です。
ツアー客に対して個人旅行客はずっと少なかったため、全員が一台の水牛車にまとめられました。我々が乗車するトレーラーには一軸しか車輪が付いていないので、乗車完了後に荷重の偏りの調整を実施。デbの人には肩身が狭い瞬間かも……。
往路の牽引機…もとい牽引牛の名前はコウメちゃん。マイペースな性格なのだそうです。通常は10分ほどで渡りきってしまうのですが、所要時間は担当する牛の性格と機嫌に大きく左右(特に機嫌!)されるため、場合によっては30分くらい掛かることもあるとか。とはいえ“平常運行”でも400mを10分ですから時速2.4km。まさに牛歩、です。
一番後ろに座っていたので後面展望を。持ち物を海に落とさないようにとちょっと気を遣いましたが。
このコウメちゃん、マイペースな性格ながらも、先行していた他の牛車をオーバーテイク。彼ら彼女らも常に全力で引っ張るのではなく、少しでもラクをしようと様々な知恵を働かせるそうです。後日乗車する竹富島の水牛車でも実感しましたが、水牛って力持ちのうえにとても賢いんですね。
乗客を乗せていない回送便とすれ違ったりしつつ、
標準所要時間の10分で由布島へ到着。ありがとうコウメちゃん、お疲れ様でした。
さて、渡った先の由布島は島全体が亜熱帯植物園として整備されています。周囲2.15kmと非常に小さい島ながらもかつてピーク時には100名を超える人口を抱えており、島内に小中学校も存在したそうですが、1969(昭和44)年にこの島を襲った高潮によって集落は甚大な被害を蒙り、これを契機に殆どの住民は対岸の西表島へ移住してしまいました。それでも島内の居住者が完全にいなくなったわけではなく、以来半世紀近くにわたって数名~二十数名単位で推移しながら、2016年現在も有人島であり続ける島となっています。見学施設と生活の場の二つの顔が同居している様子から、ザーンセ・スカンスを思い出してしまいました。
我々は個人旅行客ということで、島に着いたら即解散、となるかと思いきや。水牛車の下車地点にはスタッフが待っており、乗り合わせた乗客一同、しばらく彼女に付いていって島の案内を受けることになりました。後になって考えてみれば、コレ、案内というよりは連行に近いものだな…と。
まず最初に水牛車の発着地点そばにある建物(ショップやトイレなどがある)の中へ案内されるのですが、ここでいきなり首にレイをかけられての歓迎。いや、気温が30度超の夏ならば多少はサマになるのでしょうが、この日は曇っている上に北風が強くて上着が必須の気候だったもので、トロピカルムードなどほんの一欠けらさえも無いわけでして。どこか奇妙なテンションのまま続いて屋外へ出ると、島一番の美人だという水牛さん(笑)と一緒に記念撮影をするというコーナーへ。ただ並んで写真を撮るだけならばまだしも、「うっしっしー」という掛け声と共にウィッシュ((C)DAIGO)だかグワシ((C)楳図かずお)に似たポーズを取らされるという…。33のオッサンである私でさえキツいというのに、無辜の老夫婦が拒否権もなく強制的にポーズをさせられている光景には憐憫の涙を禁じえません。しかも我々手持ちのカメラではなく向こうさんのカメラでの撮影なので買い取りになるわけで(これはもちろん任意)。この次は由布島専属の楽団による沖縄民謡の披露のコーナーでも待っているのかと身構えて期待していましたが、さすがにそれはなくここで晴れて自由行動に。ここまで商売っ気の濃い観光施設というのも久しぶりですね。そういえばこの由布島、西表島では稀少な株式会社だそうですし。……あ、レイの回収場所がある…。さっさと捨てていこう…。
島内には色々とみどころが用意されてはいるのですが、先の「うっしっしー」が逆鱗に触れてしまったのか、連れは一刻も早くこの島を脱出したいご様子。とはいっても由布島発の次の水牛車の出発まであと15分程度あるので、せめて蝶々園だけでも見ていこうよ…とどうにか宥めます。
温室の中を優雅に飛び回る『オオゴマダラ』という種は、日本では最大級の蝶なのだとか。まったく人間を恐れることはなく、いつの間にか頭や肩に止まっているというカワイイ奴らです。
オオゴマダラのサナギは黄金色。フラッシュを炊くとキレイに輝きますよ、とのことなので、勧めに従いフラッシュ撮影です。
温室内にいた僅かの時間のあいだに、とうとう外は本格的な雨に。水牛車の発着場へ戻る途中、オフの水牛たちが水浴びをする池へ寄っていきました。其々の性格を尊重されてのんびりと働いている水牛たち。労働時間は定時上がりで残業皆無のうえに、完全週休二日制まで採られているとのことです。
こちらは休憩中の牛さん。牽引を終えたご褒美に与えられた草をはみはみしているところです。立派な角に象徴される屈強なイメージながら、とても大人しい性格で人間の指示には忠実に従う高い知性をもっています。エサは牧草や穀物という完全草食。力持ちで賢く、しかも燃費も抜群とあっては、実は労働力や品性という点で水牛に勝てる人間というのはそう多くないのでは…?という、割と残酷な真実にぶち当たってしまうのでありました。賽の河原の石積みのような「労働」をこなしただけで何か価値のある「仕事」をしたような気になっている連中は腐るほどおりますけれども。
滞在30分で由布島を後にします。復路の牽引牛の名前はヒバリちゃん。往路の満員に対して今度の乗客は我々3人(+ワゴンマスター1人)だけなので、ちょっとは楽ができたかな。西表島への到着間際に立ち止まってウンチをするなど、コウメちゃん以上のマイペースっぷりが愛らしく映りました。ちなみに並走していた団体客の乗る水牛車では御者による三線(さんしん)の演奏実演が行われていたのですが、こちらは3人なのでやる気がないというのか(笑)、延々と閑談が続くばかりでありました。
というわけで、何のかんので小学生以来の本懐は遂げられたわけなので、思い残すことはなく晴れやかな気分で車に乗り込んで再出発です。ちなみに今回は訪れませんでしたが、島内のレストランではフルーツジュースの無料サービスがありますので、島内にしばらく滞在する予定のある方はこちらもお忘れなく。
(2016.02.20)
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コメント
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久々のコメントです。
「島で用いられる電気は、このような送電線経由で西表島から送られています。この電力インフラ整備に明電舎が携わっていたために、CMで紹介されたというわけ。」→まさに、その明電舎の沖縄営業所で働いていました(^_^;)。そのCMは、昔の上司が出てます。。。
でも、石垣島での仕事は私在籍中はなかったので、今度石垣島に旅行してみたくなりました。
投稿: naitya2000 | 2016.03.05 14:14
naitya2000 さん
コメントありがとうございます
>まさに、その明電舎の沖縄営業所で働いていました(^_^;)。
>そのCMは、昔の上司が出てます。。。
まじっすか!!!!! 椅子から転げ落ちそうなくらいに驚きました…。naitya2000さんの旅行記で以前に沖縄にお住まいだったと書かれていたので、今回の旅行記でももしかしたら何処かでリンクするのでは?という予感はしていたのですが、まさかこんなどストライクな偶然があるとは。世間は狭いですね…!
今作の方はまだ3分の1ほどしか執筆が進んでいないのですが、今回の旅もとても楽しかったですね。実のところ沖縄本島や宮古島方面(…と、鹿児島県ですが奄美大島も)はマトモに回った経験がないので、こちらも(あまり先延ばしにすることなく)旅行してみたいと思っています。
投稿: chikocrape | 2016.03.06 14:20
そうなんですよ(^_^;)。沖縄営業所時代は、沖縄本島那覇市内に2年住んでました。米軍基地内の仕事もしてましたね。離島で出張は、宮古島・伊平屋島は泊まりで行ったことありますが、石垣島は日帰りで1回だけですね。。。
なので石垣島は是非行ってみたくなりました(^^)。
投稿: naitya2000 | 2016.03.07 18:17
naitya2000 さん
いや、本気でビックリしました
元・明電舎マンでいらっしゃったとは。格好いいですね…。私も沖縄生活には結構憧れるのですが、キチント星からやって来たキチント星人なもので、ウチナーンチュの「てーげー」精神にどこまで適応できるかが不安ですね(笑)。
今回の八重山旅行では食事のヒット率がほぼ100%だったので、そういった点でもとても印象が良かったです。せっかく関空からLCCがバンバン飛んでいるので、沖縄にはもっと足を運ばないと勿体ないのですけれどね。
投稿: chikocrape | 2016.03.07 21:17