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2021.03.12

Is it worth it? 特急『泉北ライナー』(11000系Ver.)

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 時下なかなか遠出がしにくいとなると、これは同時にいつか実行しようと思いつつもToDoリストの下の方で埃を被っていた計画をサルベージする動機にも転換できるわけで、今回はそんなお話。民鉄の有料特急としては異色の短距離走者である南海~泉北高速鉄道直通特急、『泉北ライナー(せんぼくライナー)』に試乗してきました。




 ちょっと早めに出てきたので、乗車する列車の発車40分前に南海難波駅に到着。民鉄最大規模の頭端式ターミナルとしてキタの阪急大阪梅田駅としばしば対比されますが、2009年竣工の改修工事によって生まれた自然光がふんだんに降り注ぐ大アトリウムを経由しての動線は、逆立ちしても阪急大阪梅田駅が勝てない魅力。私がこの駅を利用するのは大抵関空から飛行機に乗る時なので、旅立ちの高揚感が余計にその魅力を引き立ててくれるという理由もあるのでしょう。


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 改札を抜ける前に、駅に隣接した『なんばパークス』へ寄り道。アメリカのアンテロープ・キャニオンを彷彿とさせるビル谷間のメインストリートも、やはりと言うか週末にも拘らずこんな空いてるパークスは今迄見たことがない、といった具合の疎らな人通りでした。


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 それではプラットホームへ移動します。ついこの間までは大型フラップ式発車標最後の砦としても知られていた当駅ですが、この通りとうとう陥落してLCDに。とはいえ文字はフラップ時代と変わらず高精細ですし(※備考部分は以前はLEDだったので向上)、阪急大阪梅田駅ではみられない種別・行先のごった煮&カラフル感もあって、これもまた“KO勝ち”です。


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 いつも特急券を購入する際には改札外の有人窓口を利用するのですが、今回は初めて改札内の自動券売機を使ってみました。各列車の発車20分前にならないと販売を開始しないという仕様はともかくとして、シートマップはおろか窓側/通路側の選択すら不可能という極端な割り切りぶりには唖然とさせられましたが。先月の京阪電車のようなフローの長さもあれはあれで難アリなのですが、こちらもちょっと…。まぁ、有人窓口という回避手段はちゃんと用意されているので、この件に関してはお咎めなしです。


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 ニュータウン鉄道における有料列車となると、思い浮かぶ範囲では小田急多摩線の「ホームウェイ」「メトロホームウェイ」(2016年に運行廃止)、京王相模原線の「京王ライナー」、北総線の「臨時ライナー」(当分の間運転の臨時列車として運行中)が挙げられますが、今回乗車する泉北ライナーは難波~和泉中央(いずみちゅうおう)間の運行距離27.7kmと、新宿~唐木田間ですら32.1kmあることを考え合わせると30キロを割ってきたのは相当なインパクトといえます。運行は夕方から夜にかけての時間帯が中心ですが、朝にも運転。さらに上述の首都圏の列車群とは異なり運行時間帯は双方向に運転されるのが大きな特徴です。平日朝の下り(和泉中央ゆき)は8時17分発で終わってしまいますが、土日祝日は今回乗車する10時25分発までグンと繰り下がります。今日は自宅で早朝にこなさなければならない作業があったもので、それを済ませてからとなるとこの列車しか選択肢がありませんでした。


 まだ入線までしばらく時間があるので、高野線・泉北高速線の列車をメインに撮り歩いてみます。こういう時に頭端式ホームは移動がラクだ。形式の多彩さは言うに及ばず、首都圏ならばとっくに置き換えられていそうな超ベテランもまだまだ沢山活躍していますね。


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 私がこの駅を好きな理由に「大好きなラピートが発着するから」というのもあるのですが、何しろコロナちゃんのお蔭で国際線の航空需要が底打ちしているもので、土日祝日に関しては難波10時00分発の<ラピートβ37号>を最後に関西空港行きは以降すべて運休という衝撃的な事態に。梅田からラピートに乗り込むという小さな夢が実現するまで、目下のところなにわ筋線開通まで50000系電車の耐久年数が届くかどうかというのが心配の種ではあるのですが、こうなってくるとパンデミックの永続化により持ってもあと2~3年ののちに航空産業壊滅、という現実的な世界線も二つ目の「逆風」として加わりそう。とはいえ、交通・運輸業界に限らずエッセンシャルワーク以外の不要不急の産業はこの機会にジャンジャン淘汰が進んだ方が、資源の浪費が抑えられて地球環境・生態系にとっては絶対的に言祝ぐことなのですけれどね。私もナチュラルボーン旅好き・乗り物好きではありますが、かといって自然を痛めつけてまで自分のしょうもない欲望を満たそうとは考えていませんし。JRもナントカ航空もナントカ旅行社も、軒並み潰れてくれて一向に構わないですよ。てか潰れろ。尤も、産業・労働力の淘汰は人口抑制とセットでないと不協和を招くのですが、「自律的な要因による少子化および無業者の増加は人類全体のQOLを下げるどころか寧ろ押し上げる」という主旨の叙述に対して、黙って頷く圧倒的少数派とアレルギー反応を起こす/そもそも言っていることが理解できない圧倒的多数派の間にはマリアナ海溝の比ではない断絶が存在するわけで、その断絶こそがポスト経済成長時代の人類が抱える諸問題の本丸なのでしょう。


 話を本題に戻しまして…。10時15分に和泉中央から到着した列車の折り返しが、10時25分発の特急<泉北ライナー67号>となります。車内整備が終わるまで、まずはエクステリアを撮影。自動券売機に勝手に指定された4号車は最後尾なのでホームを1両ぶんも歩かずに乗り込めるのですが、ひとまず先頭の1号車まで行ってみることにします。


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 下の写真がその1号車のフロントマスク。通常時における泉北ライナーの運用は南海電鉄所属の11000系と泉北高速鉄道所属の12000系の計2編成(いずれも4両編成)によって賄われており、今回は11000系での運用に当たりました。1992(平成4)年のデビュー以来、高野線橋本以北の平坦区間で運行される特急<りんかん>用の車両として走っていましたが、2015年12月の泉北ライナー運行開始と同時に同列車での運用を開始し(当初はりんかんとの共通運用)、2017年8月に泉北高速12000系との2編成体制になってからは原則として泉北ライナーの専従車両として使われています。


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 側面です。泉北ライナーの種別色には他の特急の赤ではなく金が独自に割り当てられ(2枚上の発車標の画像を参照のこと)、車体のカラーリングもゴールド基調となっています。冬季には予備車がまったく存在しない高野線系統の特急車両の定期検査を集中的に実施する関係で一時的にりんかん運用にも入り、その際には普段こうして纏っている泉北ライナー仕様のラッピングを剥がして運用に就くのだとか。そしてその穴を埋めるために通常は南海本線にて特急<サザン>として運用されている12000系電車(通称「サザン・プレミアム」)が泉北ライナーとして運用され──という玉突きが毎シーズン繰り返されている模様。融通無碍というか、いじらしいというか。


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 続いて車内です。泉北高速所属の12000系は基本的にサザン・プレミアムと同仕様のようなので、このクラスの特急型車両としては比較的グレードが高めなのですが、こちらもこちらで1992年というバブルの慣性が残っていた時期に製造されたこともあってか、最近の車両ではあまり見られなくなった重厚な雰囲気が漂っています。LED車内案内装置や半間接照明など、これがあればモダンという装置が一通り揃っているせいか、リニューアルが行われないまま来年で30周年を迎える車両にしてはそれほど古びた感じはしません。


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 シートです。例によって奥がリクライニングなし・手前がフルリクライニングですが、乗り物の中で居眠りができない故、角度には大してこだわりのない私ですらこれは浅いなぁと。ただ、シートピッチは12000系の1,010mmより2センチ広い1,030mmとのことで、アームレストも(たぶん)合皮張りでこちらの方が感触が良好。正直なところ、11000系が入線してくるのを見てこれはハズレ引いちゃったかな?と思ったのですが、こうして観察するとトータルの居住性ではかなりいい勝負をしているのではないかという印象です。


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 バー式のフットレストに足を乗せて。12000系のシートの座面幅は明確に実感できるほどに広めなので、ここは素直に負けを認めましょう……


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 座席背面にはテーブルを収納するために準備したであろう窪みがありますが、実際には非設置。その代わりに小ぶりなインアームテーブルが装備されています。列車の性質上あまりそういう場面は無さそうですが、座席を向かい合わせにした時にも使えるという利点も。なお、窓框は幅が狭くて缶コーヒーすら置けませんのでご了承を。


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 泉北ライナーは勿論、りんかん運用でも短距離特急の部類に入る車両ですが、トイレ・洗面所・飲料の自販機コーナー・ちょっとしたフリースペースと、付帯設備においては軽快どころかなかなかの重量級。南海電車の特急列車には<こうや><ラピート><サザン>とあらかた乗車しましたが、いずれも長距離運用に就いてもおかしくないような手抜き感の無さが偉いところです。ひとつだけ心残りがあるとすれば、泉北高速12000系オリジナルのキンキラキンの内装にお目に掛かることが出来なかったことですね。


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 エクステリア観察&撮影に5分弱、インテリア観察&撮影にも5分弱を費やしたので、自席に着いたところで早くも出発。席番も勝手に17番が指定されましたが、どうせガラガラだろうし事実上の自由席でしょ、と、特に気にしてはいませんでした。窓側でしたし、別の席に移動していちいち車掌の声掛けに対応するのも面倒なので、そのまま指定された席に座っておくことにします(この場合は車内改札は省略)。


 新今宮の次の天下茶屋が南海線内最後の停車駅で、次は一気に泉北ニュータウン内の泉ケ丘まで無停車。泉北ニュータウンのほぼ全域が堺市内に含まれますが、同市の中心駅で従来すべての営業列車が停車していた堺東は通過となります。弊ブログでも以前、間接的に堺市の中心市街地の地位低下について取り上げたことがありますが、そもそも中心部を通らないOsaka Metro御堂筋線に続いてとうとうこのような停車駅設定の列車まで登場してしまうとは。同じ政令指定都市だと相模原市も東京都心志向が強いのですが、あちらは元来中核エリアが分散しているという特徴がありますので。


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 当列車の2分前に急行橋本行きが先行しており、こちらは当然堺東にも停車するので、元々カーブが多くて速度が上がらない区間ではあるものの頭を押さえられてそれ以上のノンビリペースです。余談ですが嘗て京王線で運転されていた(速達版の)特急橋本行きは逆に急行に頭を押さえられる立場で、急行停車駅を通過する意味が全然無かったな…と振り返ってみたり。堺東を過ぎると北野田へ向けて逃げる急行を追撃するかのようにスピードが上がりましたが、それも3駅先の中百舌鳥(なかもず)で終わりです。下の写真は堺東通過のシーン。


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▲通過してます!@堺東駅


 中百舌鳥から泉北高速鉄道線へ入ります。1971(昭和46)年の開業より長らく「大阪府都市開発」という第三セクターにより運営されてきましたが、2014年に南海グループが全株式を保有する純民営会社、「泉北高速鉄道」による運営に変わりました。下の写真は開業50周年を記念した中吊り広告(復路の電車内で撮影)。最早“ニュー”タウン鉄道と呼べるかどうか……なんて野暮なツッコミはしますまい。


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 高野線から分岐するといったん地下へ潜り、トンネルを抜け出るとそのまま高架線へと上がります。ニュータウン鉄道らしく線内は中百舌鳥駅付近を除いて完全立体化されており、線形も良好。地平区間をクネクネと辿ってきた高野線からはガラッと様相が変わります。


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▲(3枚)高架線上からの車窓


 (料金不要の)一般列車が全列車停車する深井駅は、泉北ライナーは通過。この駅が泉北高速線内唯一の通過駅です。理由は泉北ニュータウン内にある駅ではないから、ということらしいのですが。路線の計画当初は設置が予定されていなかった駅で、かねてより疎外感めいたものを薄々感じてはいたのですが、ここまで露骨にハブられるというのは開業45年目にして初ではないでしょうか。


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▲通過してます!@深井駅


 深井を過ぎると大阪府道34・38・223号線、泉北ニュータウンの大動脈である通称「泉北1号線」の上下線に挟まれて走る区間が終点和泉中央まで続きます。列車のスピードの方は60km/hで走るクルマよりは速いものの、然りとてぶっちぎるには程遠い──といった程度。


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 難波から22分、泉ケ丘に到着。線内の駅では最も乗降客数が多く、泉北ニュータウンの中枢ともいえる地区です。


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 続いて栂・美木多(とが・みきた)に停車。4号車には難波から私以外に3名乗車していたのですが、うち2名がこの駅で下車していきました。


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▲4号車の車内(栂・美木多停車中)


 そして早くも最後の途中停車駅、光明池(こうみょういけ)へ。他の車両からは下車がありましたが、一般列車ならば改札口へ向けて細くとも列が延びるところがこちらはホームを凝視していなければ下車客が居たかどうかすらも分からない、といった感じです。


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 10時56分、終点和泉中央到着。ここまで乗り通したのは私を含めて3名…だったはずです。因みにここは泉北ニュータウンではなく、隣接する和泉市内の「トリヴェール和泉」というニュータウンエリア。中百舌鳥~光明池間は段階的に延伸のうえで1970年代に開通していますが、最後の一駅間の開業は1995年を待つことになります。泉北ライナーの難波~和泉中央間の所要時間は最速の29分から朝ラッシュ時上りの37分まで各列車バラツキがあり、67号の所要時間は31分と、2本前を先行していた区間急行(難波10時07分発;泉北ライナーの停車駅に加えて堺東・深井に停車)と比べると僅かに1分早いだけでした。1本前の準急行(難波10時18分発)は堺東以遠が各駅停車なので所要時間は34分となりますが、それでも後続の泉北ライナーからは余裕で逃げ切って先着しています。


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 到着した電車は回送列車に。光明池車庫にて12000系と共に、夕方の出番まで長いお昼寝タイムに入るのでしょう。この車両の運転速度では空力的に全然意味がないとはいえ、やっぱり特急型車両のデザインの王道は流線形と連続窓(ふうの処理)だよね、と改めて感慨にふけっておりました。


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 週末の朝の下り列車ということから至極当然ではあるものの、運転区間全体を通した乗車率はn.d.、ほぼほぼ空気輸送という結果に。ごく一部の準急行が堺東で泉北ライナーの待避を行うほかは高頻度運行の区間急行・準急行が先発先着なので、520円の特急料金(全区間均一、小児半額)は純粋に設備と着席保証の対価ということになりますが、このパンデミック下だと衛生上・安全上の便益というプライスレスな価値も加わるのかも。……と、あくまで難波発着の括りでは一般列車or有料列車という図式になりますが、これが梅田発着となると中百舌鳥乗り換えのメトロ御堂筋線~泉北高速線ルートが最安になり、御堂筋線区間は各駅停車ながらも所要時間には大差はなし。抑々このエリアを訪れる機会が皆無に等しいとはいえ、実用面で泉北ライナーに乗車することはもうないかな、という判断です。現行のダイヤでは泉北ライナーのスジは純増で一般列車の輸送力は従来の水準が維持されているため、ユーザー目線ではメニューの選択肢が増えたと好意的に受け取っておけば良さそうですね。


 次回は和泉中央駅を基点とした寄り道編。

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