22/10/04 (1)新型名阪特急ひのとり【プレミアムシート編】
先々月の記事の末尾で予告していた通り、暑さが和らぐのを待って、国際芸術祭『あいち2022』(→公式サイトへ)の観覧を軸に名古屋を拠点にした2泊3日の旅に出掛けてきましたので、連載としてまとめておきます。前回の紛擾のせいでタイトルには入っていないもののトリエンナーレということで(但し公式サイトのアドレスは aichitriennale.jp)、疫病禍を上手く掻い潜ってスケジュール通りに3年後の開催となりました。今回は直感的に展示作品群に前回ほどの興味は惹かれず、観覧後の印象としてもその直感は(遺憾ながら)正しかったのですが、会場に私的日本の好きな町並みで上位に位置する常滑と有松が含まれていると知り、モチベーションが急上昇したという次第。コロナちゃん対策の点でも客層からして観光地やテーマパークなどに比べれば遥かにリスクは少なかろう、というわけで、第2回踊る阿呆祭り(別名:全国旅行支援)×国境開放開始前に滑り込んだ今年最後(のつもり)の泊りがけの旅、です。
前回&前々回の名古屋行きは往路高速バス・復路新幹線という組み合わせだったのですが、今回は往復とも近鉄特急を利用。となれば往路は満を持しての「ひのとり」プレミアム車両の初乗りで決まりです。車両(80000系電車)自体の初乗りは2年前に済ませてあるものの、レギュラー車両で大阪難波→大和八木の28分だけでしたからね。流石に190kmも先の名古屋まで日帰りで行って帰って来るだけという無駄遣いはしたくなかったので。
往路に使用したチケットレス特急券の画像です。乗車券は株主優待券を金券ショップから1,600円で仕入れたので(大人正規運賃の2,410円から34%OFF)、特急料金及びひのとりプレミアム料金と合わせて4,430円という勘定に。参考までに新大阪~名古屋間で新幹線のぞみを利用すると、乗車券+普通車指定席特急券(通常期)で6,680円(スマートEX利用では6,480円)となります。なおチケットレス特急券は乗車翌月に10%のポイント還元がありますが、ポイント利用は全額充当時に限るため、利用頻度からしてまず間違いなく1年後に失効でしょう。
栄の愛知芸術文化センターへ10時到着を目標に早起きを頑張って、午前6時半過ぎ、大阪難波駅1・2番ホームに立ちます。2番ホームにはまだまだ現役のビスタカーが停車中。こちらの6時40分発宇治山田行きが出て行った後はしばらく1番ホームからの発車が続くため、前回と同様、乗車する7時00分発のひのとりは早目に入線してくる模様。
ホーム上には鉄道グッズの自販機も出来ていました。毎度のことですがミニマリストなのでこちらはスルー。商売熱心なのも(実物の)グッズならばまだ結構なのですが、某旅客鉄道のように有料撮影会だのNFTだのとかはね……
宇治山田行きの発車後すぐに、奈良・名古屋方から電車が入線。昨年2月、名阪甲特急全列車のアーバンライナーnext/plusからの置き換えが計画通りに完了し、平日は大阪難波発・近鉄名古屋発ともに7時00分から21時00分まで1時間毎の発車と、もはや“特別”な列車ではなくなりました。
乗車する6号車は6両編成の最後尾。これだけ気合の入った車両なので、当然のことながら栄誉ある賞を授与されています。それも複数。
階段を上がった先は、プレミアム車両券所持者のみが立ち入れるエリア……ということになっています。
その前回「レギュラー車両利用なので本来は入れないのだけれど、ご祝儀乗車のドサクサに紛れて入っちゃった」エリアへ再び。というわけで今回は写真を多数貼った前回の記事の増補という位置付けのため、そちらを併せてご覧頂ければと。なお、シートマップから選択したのは最後列の一人掛け席、1A。後ろに干渉することなくリクライニングを倒せるという理由で好まれることもあるポジションですが、ひのとりはレギュラーシートとプレミアムシートの双方でバックシェルタイプの座席が採用されているため、今回はそれとはまるで無関係。単に先客の予約状況を見ながら車内全体でばらけるように選んだというだけです。尤もその甲斐なく隣の1Cに乗客がやって来てしまいましたが、一人客でしたし間隔も空いているのでまあいいやということで。
ここからは新しく収録した視点の画像。1,300mmのシートピッチは普通に着席した状態だと持て余してしまうほどの広さですが……(後述)。
アームレストの先の小テーブルは、スライドさせるとカップホルダーが出てきます。写真には写っていませんが、コンセントもこちら側に設置。
もう一方の先には、読書灯・シートヒーター・リクライニング機構の操作スイッチ。リクライニングは背もたれとレッグレストを同時に動かせるほか、各々を個別に調節することも可能でした。しまかぜのプレミアムシートと同等品かと思いきや、シートヒーターが新たに装備された一方でランバーサポートが省略されたりと、私個人にとっては全く気にはなりませんが細かい差異は存在しました。
カーテンはしまかぜと同じくブーン…と音を立ててゆっくりと上下する電動式ですが、スイッチが少し目立ちやすい場所へ移動しています(下の写真下。しまかぜは窓框下部側面)。それでも気付かなかったのか、はたまた気が短いのか、無理矢理手動でシャーッと下げる乗客もおりましたが。
プレミアムシートには背面テーブルはないので、代わりに折り畳み式のインアームテーブルを装備(下の写真は広げた状態)。アームレストのものと合わせて大・中・小の使い分けが可能です。
プレミアムシート限定のやわらか枕です(上下に調節可)。
【追記】自力で気付く人が何パーセント居るのか分かりませんが、枕に見えるこれがヘッドレストで、左右の端を手前に折り曲げられるようになっているそう。
自席のすぐ後ろの運転台。通路から見る限りではそこそこ眺望は良いのですが……(こちらも後述)。
着座視点です。
ノンストップの看板を下ろして久しい名阪甲特急、こちらの7列車は大阪上本町・鶴橋に続いて大和八木・津と停車していきます。6号車の乗車率は大和八木での乗車にて確定値となり、定員21名に対して7名。なお、予約を入れた時点では同じプレミアム車両でも先頭の1号車の方がよく埋まっていました。早朝に名阪特急に乗車するのは初めてでしたが、進行方向右側はほぼ全区間に亘って朝日が射し込むために、折角の大窓ながらも相当下までカーテンを下ろさざるを得ず。この乗り具合ならば二人掛け席を選んだ方が良かったかもしれませんね。
車内Wi-Fiでのインターネット接続スピードの計測結果です。数値自体は大変良好なのですが、実際にはWi-Fi接続が頻繁に切断されるという困った事態でした。自宅のWi-Fiは何ら問題なく繋がるので、個体依存の不具合ではないはず。iOS14以降にてデフォルトで設定されるプライベートアドレスが悪さをしているのかと考えたのですが、オフに切り替えても症状は改善せず、結局この場では解決できなかったので諦めて4Gで使っていました。
大阪難波出発後にいつもの手作りおむすびで朝食を済ませたのち、大和八木の手前あたりでプレミアム車両デッキに用意されたカフェスポットへ。お目当ては下の写真左の豆から挽くホットコーヒーの自販機です。テイストは濃厚タイプとすっきりタイプの2種。カップもひのとりオリジナルデザインのものが用意されています。価格は200円。右の自販機もそうなのですが、近鉄特急の車内サービスは総じて価格が良心的なのには感心です。
車内で配布されているおしぼり(紙製)です。ひのとりが載っている最新バージョンながら、昔と変わらぬこのレトロ感よ。
因みにプレミアム車両の売りであるはずの前面展望に関してなのですが、6号車の場合だと(*注)1Aからの視点ではこのような感じで右半分しかまともに見えません。1Cからだと左半分なので、実質的には1B限定。側面展望に飽きたら座席を転換して後面展望を楽しむつもりでいたものの、斯様な状況なのであっさりヤメにしました。知ってか知らずか、これでもひのとりの予約は先頭車両の最前列から埋まっていくのが不思議。
*注:1号車の場合は7番A・B・Cが運転台直後の席。
道半ば、中川短絡線通過のシーンです。大阪→名古屋方向は転線1回でスムーズである一方、名古屋→大阪方向の場合は転線を3回繰り返し、通過中は大阪線・名古屋線双方ともに逆方向の列車の通過が阻害されてしまうという、スジ屋さんにとっては大和西大寺ほどではないにせよ少々面倒な配線となっています。通過本数自体も単線ながら毎時4~6本と多いですからね。
──と、この辺りで乗り物酔いにかかったのか、ちょっと気分が悪くなりまして。船はともかく鉄道で乗り物酔いという経験はこれまでに殆ど無かったのですけれど。記憶に残っている限りではその昔、「はくも」…もとい伯備線特急「やくも」で喫煙席しか取れなかった時だけですね(後で禁煙車の車掌持ち調整席へ移動)。写真撮影のために下を向いている時間が長めだったという心当たりはあるものの、やっぱり三半規管の衰えのせいでしょうね。プレミアム車両ご自慢のフルアクティブサスペンションも、このタイプの揺れに対しては効果なしだったようで……。
というわけで、予定にはなかったのですが背もたれとレッグレストを最も水平に近いポジションにまで倒し、症状が治まるまでしばらく横になることに(下の写真。本当はサイドからの視点の方が分かり易いのですが)。バックシェルタイプ故に座面がかなり前まで迫り出してくるため、切り欠きがあってもなお、爪先が前の席のバックシェルに触れてしまいます。因みに私は身長170cm、足はどちらかというと長めというスペック。180cm超えならば恐らくレッグレストのフル展開は物理的に不可能でしょうね。それよりも個人的には足の先が宙に浮いてぶらぶらするのがどうにもこうにも落ち着かず。普通の着席姿勢でもレッグレストの使用は出来るものの、そういう理由で使わずに床に足を置いていました。それはともあれ指定された席に座っている限りでは車内改札は実施されないため、始発駅から終着駅までフルリクライニングでひたすら寝るという芸当も可能です──私のような貧乏性の人間には無理ですけれど。
最後の停車駅・津(8時22分着/24分発)では、大阪難波行きアーバンライナーplusとすれ違い。現在乗車中のひのとり7列車もそうなのですが、朝夕のラッシュ時間帯にかかる列車は停車駅こそ絞ってあるもののデータイムよりも所要時間が若干延び、前後を走るアーバンライナーnext/plus充当の名阪乙特急と所要時間が大きくは変わらなかったりします。なお、復路の列車は乗車直前まで未定なので、タイミングによってはアーバンライナー(のデラックスシート)を利用する可能性アリ。乙特急に汎用車両が充当されていた時代にはアコモデーションの当たり外れが大きかった為に選択肢には挙がって来なかったので、この名阪間の実質的なフリークエンシーの向上が「ひのとり」投入に伴うもう一つの小さくはない変化と呼べそうです。
問題。この通過中の駅は何駅でしょう?(配点1万点)
しばらく横になれたお蔭か気分の悪さが治まったならば、2時間12分の短い乗車体験は間もなく終了。名阪甲特急の大阪難波―近鉄名古屋間最速は現行で2時間05分ですが、こちらの7列車は平日ダイヤにおいては白子・近鉄四日市・桑名停車の列車を除けば最遅の便となります。終着駅が近づくと、下2枚目の写真のようにプレミアム車両限定で天井が青く染まるという演出が。LEDの間接照明はレギュラー車両も共通なので、ここで差を付けている訳は謎ではありますが。
近鉄名古屋駅手前でかなり長い信号待ちがあったもののこれはダイヤに織り込まれており、定刻ぴったりに到着。最後に印象を簡単にまとめておくと車両そのものの傑出したグレードもさることながら、その神髄は自らキャッチコピーで謳うようにこれが特別ではない、ニュースタンダードだということに尽きるでしょうね。京阪のプレミアムカー〔8000系/3000系〕がインターアーバンに於ける革命児ならば、こちらは正にインターシティに於ける革命児。ただ、個人的には4時間5時間ならばともかく2時間強の行程にここまでのシートはオーバースペックに感じ、何よりレッグレスト使用時の足の先ぶらぶら状態が思った以上に減点ポイントになってしまったかなと。これはほぼ共通するスペックの座席を装備する「しまかぜ」も同様なのですが、カフェ車両を訪れる・アテンダントによるサービスが受けられるというソフト面での愉しみを有するしまかぜと異なり純粋にハード面での違いでしかないひのとりでは、プレミアム料金が若干廉価に設定されてはいてもこういった評価になってしまいます──但し名阪間のひのとりプレミアム料金は900円に抑えられているため、JR系の特別料金の法外さと較べたならば瑕疵は瑕疵でもほんの掠り傷程度でしかないわけですが。ひのとりのレギュラーシート及びアーバンライナーnext/plusのデラックスシートでは靴を脱いでフットレストに足を置けるので、多分こちらの方が快適なのでは? というわけで復路はひのとりプレミアムシート利用は見送り、この2種のうちどちらかを選ぶことになりそうです。あと附言するならば、来年4月に控えている運賃改定の件ですね。その上げ幅の大きさが話題となりましたが、大阪難波―近鉄名古屋間では2,410円から2,860円へと一気に450円の値上げとなり、実際には今回の乗車のように「抜け道」は用意されているものの、コストパフォーマンスが最大の目玉である近鉄特急にとってはやはり競争力の低下は免れないところ。短中期的には社会情勢の顕著な変動による輸送需要の上下、長期的には勿論中央リニアの全通と、アーバンライナー世代とは比較にならないほどの強い外部要因に晒されるという宿運を背負って誕生した、名阪特急の新エースのお話でした。
ちなみに…… 上記のクイズの答えは近鉄四日市駅でした。シャッタースピードが1/13まで下がってしまったので。
(2022.10.04)
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