24/10/18 (5)観光特急あをによし その2【行程編(京都→鶴橋)】
ヌシが不在の向かいの2席が淋しげではあるものの、“ほぼ”定員いっぱいに旅人を乗せた列車は16時20分、定刻通りに京都駅を離れます。いつの間にやらまた雨も降り止んだ模様。観光「特急」ですので、1分でも長く留まっていたい我々の願いとは裏腹に飽くまで先を急ぐ走りで運転されます。青の交響曲の16200系電車は通勤型時代の車両性能のまま特急のダイヤに乗せるというある意味ムチャをしているのに対し、こちらは高速走行に最適化された正真正銘の特急型車両ですので、経年49年ながらも乗り心地に関してはごく細かい点に目を瞑れば今なお通用する矍鑠ぶりです(ちなみに乗車中の3号車はT車)。
6分で近鉄丹波橋。四条河原町界隈からだと四条大橋を渡って京阪電車で祇園四条→丹波橋というルートもございます──移動だけで考えるならばですが。着席中のカウンター状のシート、イナカを走る観光列車と違い、都市部を往くこちらの列車ではホームの乗車位置で整列中の人と45度の角度でご対面…というのがちょっぴり気まずいでしょうか。
気まずいというのはこちらが優雅に飲み食いしているシーンが丸見えという意味もあるのですが、下の写真がそのマールブランシュ謹製のスイーツ2点です。「マールのお濃茶」(写真左;税込594円)は抹茶(濃茶)のフォンダンにミルクムースを重ねたケーキ。トップの抹茶パウダーの濃淡が茶源郷・和束の風景を連想させ、最早アートの域に達しています。マールブランシュの看板商品の一つである「茶の菓」(写真右下;3枚入りで税込486円)は同じく濃茶を使用したラングドシャ。ラングドシャというジャンルは競合商品が多いために正直なところ飛び抜けて美味しいという感想には至らなかったものの、マールのお濃茶については見て楽しい食べて楽しい、期待通りのクオリティで満足しました。コーヒーは車内で購入すると割高なので、近鉄京都駅ホーム上のファミリーマートで世界NO.1バリスタ監修ナンタラと謳うものを用意してきましたが、コーヒー好きの私ですら一口でアカンなコレと判断するほどの食わせ物でした……コンビニ三大チェーンの一角からの、まさかの奇襲攻撃。
車窓の方は我々が飲み食いやおしゃべりに専念できるよう終始脇役に徹してくれていますが(婉曲表現)、その中から少しだけピックアップ。桃山御陵前~向島間で宇治川を跨ぐ長さ162mのトラス橋「澱川(よどがわ)橋梁」は、1928(昭和3)年に完成して以来100年近く現役の鉄道橋として使われ続けており、国の登録有形文化財にも指定されています(下の写真は渡河中の車窓)。
こちらの近鉄京都線、私のような阪神間の住民にとっては都市間移動にせよ沿線観光にせよ全くと言って良いほど利用機会のない路線ではあるのですが、10月2日には小倉駅近くの元任天堂宇治小倉工場の敷地を整備して「ニンテンドーミュージアム」が開館しており、こちらへのアクセスとしては使うこともあるかもしれません。完全予約制かつ複数人で訪れた方が楽しい作りなので、スケジュール調整のうえでまた日を改めて。
京阪神地区で平野部をゆく路線としては珍しく、ターミナル駅から十数分も走れば次第に田園基調の風景へ。これでも列車の本数は大手私鉄の主要幹線らしい頻度が確保されており、京都口で比較するならばとりわけ地下鉄直通系統が加わる竹田~新田辺間は最近削減傾向の京阪電車よりも多い位ではないかと思われます。
近鉄丹波橋から18駅を飛ばして16時50分、大和西大寺着。列車は大阪難波方面へ向かう前に一旦近鉄奈良を経由していきますが、重複乗車になる大和西大寺~近鉄奈良間は運賃・料金のキロ程計算には含まれません。この区間にある平城京跡も往復で二度眺められるというオマケつき。下の写真は往路バージョンです。
近鉄奈良では5分停車(下1枚目の写真;16時55分着/17時00分発)。ここで列車の進行方向が変わります。私は逆向きでも然程気にならないタイプではあるものの、このようにツインシートのシングルユースの場合は両方向とも(同行者に甘えることなく)進行方向向きに腰掛けられるというのもメリットのうちです。奈良といえば普段は只々カワイイ鹿たちですが、発情期の今の時季は一転凶暴になっているので(雄の方。勿論個体差はあります)、訪問の際にはこちらにもご用心。下2・3枚目の写真は3年前の今頃、若草山の麓で不用意に弁当を食べていたら雌鹿に襲われ?ましたのシーンです。
復路バージョンの平城京跡です(違いは下り線路を挟むか否かのみ)。
二度目の大和西大寺では運転停車は行うものの、客扱いは京都~近鉄奈良のセクションでのみなので時刻表では通過扱い。
列車は一路大阪へ。奈良線は京都線のように日がな特急が頻発しているわけではないので、窓向きという着席ポジションも込みでそれなりに稀有な体験です。7日に第1~第3編成が営業運転を開始したばかりの新型一般車両・8A系とも早速すれ違いました(とうとう名古屋線にもこちらが!!)。京都駅で待っている間に車内だけでも覗くことが出来ればなお良かったですけれどもね。まもなく日没時刻、そして曇天というわけで、各テーブルに設けられたランプも暗くなってきた車窓に合わせて一際輝きを増しています(下の写真)。
さて、ここまで保留していたシートの座り心地の件なのですが、家具メーカーによる特注デザインというわけで一般的な鉄道車両用のシートとは一線を画する造り。すぐに判るのはデラックスシート相当ながらもリクライニング機構が搭載されておらず、背ずりもほぼ直立ということですね。座面はソフト・背ずりはかなりハードと感触自体も変えており、率直なところ京奈間30~40分の着席時間がターゲットで今回のような1時間超の乗車には明らかに適さないものとなっています。正しく青の交響曲でずっと2号車のラウンジ車両に居るかのようなフィール。車両そのものは標準軌線区ならばイベント・貸し切り列車として何処へでも出張できるものの、仮に伊勢志摩や名古屋へ着いた頃には腰が悲鳴を上げているのでは…。とはいえシートの欠陥というわけではなくあくまで「場違い」、という評価が正当なものでしょう。
新生駒トンネルを抜けると大阪難波発着の「あをによし」にとっては上記の平城京跡と並ぶハイライト(にしてはショボいが)、大阪平野を眼下に望む区間へ差し掛かります。日没時間ぴったりながらも生憎夕焼けと共演とはいきませんでしたが、首尾よく大阪平野側の席の予約が取れただけでもラッキーですのでこれ以上は贅沢というものでしょう。
東大阪を一直線に貫く高架線を駆け抜け、17時29分、鶴橋に到着。大阪難波駅の西行きの発着線は1線のみ故、到着したらすぐそこに迫っている後続列車へ速やかにホームを明け渡さなければならずゆっくりと余韻を味わっている暇はなく、運賃も京都からだと鶴橋下車の方が70円安い、ついでに梅田へ出るにも大阪環状線の方が御堂筋線よりも安いという具合にベネフィットもあるため、十分満足したこともあってここで下車することにしました。トータルの感想としては青の交響曲編で記した
サービスというものが得てして「慇懃すぎる接遇の押し売り(正しく金銭的な意味で)」に堕しがちな中で、近鉄の観光特急のようにハードウェアに注力する一方でソフトウェアを吟味・取捨選択して乗りやすい料金を実現するという方向性は大変好ましく感じられました。をそのまま繰り返す形になりますが、「あをによし」に限っては雰囲気は申し分ないものの想定時間を超えた乗車だとやっぱりシートが…という一点に尽きますし、京都へ来たツーリストを奈良へ誘致するという目的にも合致しているわけなので、無理にチケットの入手難度の高い大阪難波発着便を狙わずとも近鉄奈良始発・終着便で乗車体験として物足りなさは無いのでは、と結論を出しておきます。何だかんだ言っても特急料金に大人1人あたり210円を足すだけで乗れる車両としては破格の出来ですので、「しまかぜ」「青の交響曲」と並んで末っ子──ちなみに車齢は最年長!──のこちらもまた激推しです。
▲(2枚)鶴橋駅ホームにてお見送り
鶴橋からは真っ直ぐ帰宅。乗り鉄&街歩きの秋は10日後の富山編へ続きます。
今日の歩数カウント:19,970歩
〔関連記事〕
観光特急青の交響曲 その1・その2・その3・その4
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